※インタビューの音声が流れます。
brand :
ニット産業の町、山形県山辺の地に創業して以来70年の歴史を誇るニットメーカー、「米富繊維/ヨネトミセンイ」。“米冨”の名は代々伝わる“米冨屋富蔵”という屋号の通称。その祖は鎌倉幕府に仕えた大江一族とされ、幕末の時代には既に生糸を手広く商い、丈夫で高度な染色技術を誇る山辺木綿の卸売りとして名を馳せていました。
その後、手動の編み機が主流だった時代にマシンを導入したり、糸の開発を先駆けて行うなど、常に先進的な取り組みを行ってきました。創業以来培われた技術と、複雑なプログラミングから生まれる高いクオリティをもつニットテキスタイルは、まさに圧巻。
2010年には自社のファクトリーブランド〈COOHEN/コーヘン〉を立ち上げ、続けて〈THISISASWEATER〉、〈Yonetomi〉と、伝統的な技術と新しい切り口でファッション業界から高い評価を得ています。
現在は、OEM/ODM、オリジナルブランドの三事業を軸に企画から生産、販売まで手掛けています。
interview :
Q1.〈Yonetomi〉を代表するリジットカシミヤの開発過程や改良など、製品化に至るまでの制作秘話を教えてください。
大江氏ちょうどコロナ禍に入り大変な時期に、弊社の工場の受注がとても少なくなってきて、なにか新しいことをブランド以外でもしないといけないなということで、最初カシミヤのカラーオーダー会を、色々なお店にプレゼンをしに行ったことがあって。それがちょうど2020年の夏頃だったと思います。ロフトマンの木村さんとは以前オリジナルブランドの展示会でお会いしたことがあったので。当時、お取引はまだなかったんですけど、こういうイベントをしてみませんかと提案したのが始まりです。
10色くらいのカラーリングがありまして、まずサンプルを京都に持ち込んでお話を聞いていただいたと。その際はタイミングの問題とかいろいろありまして・・・、2020年の秋冬にイベントをすることは繋がらなかったんですけど。その際、染める前の見本を見ていただいた時に、染めるよりも染める前の製品そのものの方が非常に興味があるというお話になってですね。
実は、サンプルで縫い上がったものを見て、自分も初めて見た商品というか。単純に染める前のものなんですけど、触って、なんかカシミヤのような、コットンのような。で、なんとなく自分でもこれで良いかなとか思ったりしていたんです。その時はまさかこのまま欲しいという人が現れるなんて想像もしていなかったんですよ。木村さんとお話する中で、同じように思う人がいるんだということで、試しに敢えて染めない状態で、この秋冬着てみましょうということになって。自分たちが袖を通してみたのがそもそものきっかけだったということです。
作り手である僕たちが、狙って最初から作られた商品というよりか、ある種そういった出会いと偶然が産んだ、そんなストーリーがこのセーターにはあります。
それが2022年の冬ですかね。そこから、やっぱりロフトマンさんでも販売したいということで、急いで作って年末に納品して。
その間、たまたま米富繊維でも雑誌の取材が工場に入った際に、まだ〈Yonetomi〉というブランドが誕生していないんですけど、編集の方が「雑誌に掲載したい」ということで。
そういった偶然が重なって、弊社では当時まだお店がなかったので、ECサイトにアップすると、雑誌の発売と同時に問い合わせが殺到してですね。そこからこのリジットカシミヤが世の中に出ていったといった経緯があります。
なるほどですね。「洗えるカシミヤ」、はその当時画期的なニットだったと感じた覚えがあります。
大江氏よくお客様が仰るのが「高いお金を出して、もったいなくてあまり着なかった」って。僕はそれを勿体ないよなって思うんですよ。
仮に結構なプライスがしたとしても、使った金額に対して長く着れて、気兼ねなくガンガン着れた方がオトクなはずなのに。
実際はウールよりカシミヤのほうが手洗いとかには適しているので、縮みにくいんですよね。カシミヤを雑に着るってわけじゃないですけど、自分で洗い方を覚えていくっていう方が、セーターとの付き合い方としては良いんじゃないのかなと思ったのが出発点です。
Q2.次に、ニットメーカーとして、他のファクトリーには真似できない米冨繊維さんの強みを教えてください。
大江氏まず、カシミヤのセーターを一つ例に上げても、どんなモノづくりでもオーセンティックな、王道みたいな作り方はあって。セーターといったものはイギリスやスコットランドが発祥のものとか。カウチンだったらスコットランドだったり、アランセーターだったらアイルランドで生まれたとか。主に欧米を中心とした寒い地域の人たちが生活の道具として着ていたものがファッションアイテムになっていった。
イタリアなんかはニット作りが盛んなので、日本のファクトリーブランドより歴史が長いブランドもたくさんあって。特に欧米のメーカーは100年以上もそのアイテム一筋で作り続けて、そこに一つのブランドとしての信頼がある。そういった意味合いでヨーロッパのブランドと比べると、日本人は元々和装を着ていたので、文化レベルの差みたいなのはあると思うんですけど。その分それぞれのオーセンティックなモノづくりやアイテムの良さを自分たちなりに編集して、表現を変えたりするのは日本人の得意なところなのかなって。
リジットカシミヤも硬さとか洗えるとか、染め替えができるとかっていう部分にスポットが当たりがちなんですけど、まず単純にこのセーターの形が、セーターのオーセンティックな形ではなくスウェットのようなパターンを使用しているという点で、ベーシックをちょっと捻っている。こういうセーターとスウェットの間みたいなシルエットは、今の人達の生活のスタイルにはマッチしやすいものになっているのかなと。デザインソースはアメカジの違うアイテムだったり、そういうのをセーターの作り方と合体させたりっていう。
今、オリジナルブランドがCOOHEM(コーヘン)、THISISASWEATER、Yonetomiと、3つのブランドを一つの工場で作っていて、それぞれの切り口で、時にアレンジしたり。そういうことが米富繊維というニットメーカーの最大の強みなのかな、と思います。
Q3.それでは、海外のニットファクトリーと比較して、山形で生産するということについての強みはありますか?
大江氏山形県はニットの産地として、弊社のような工場だけではなくて紡績工場があったり染色工場があったり。そういったモノづくりに携わり、相談できる人がいるっていう環境があるのは、他の産地とかとは違う。各段階で色々なプロに相談して解決していくことができるのは強みだと思いますし、そういう環境でないとこういうプロダクトは生まれようがないというか。
なので、生産するインフラが整っているということは、「こういうセーターが面白いんじゃないか」とか、「セーターのこういったところが直れば、もっとお客さんにおすすめしやすいのに」というのを形にしやすい。
(リジットカシミヤも)最初はみんなに反対されましたよ。社内でも。問題が起きたらだれが責任を取るんですかとか、こんなに詰めて編んで、機械が壊れたらどうするんですかとか。縫う人もリンキングの針に刺さらないので、もう少し甘くして欲しいって。だからダメって。でもどうしてもやんないといけない、だってこれが良いんだもん。
やれるんですよ、やろうとしなかっただけで。これが普通になるともうやれちゃってるので。そういうところは、対面で相談できるいい環境なのかなって。モノづくりもコミニュケーションというところがあるので。
Q4.ありがとうございます。少し視点は変わりますが、ニットを選ぶ上で、お客様に見てほしいところはどこですか?
大江氏そうですね…。ニットだけじゃないかもですけど、やっぱりその裏側っていうか。表に見える情報っていうのは、当然表から見て綺麗に見えるように作っているので。裏返しにして着るわけではないんですけど、モノの作りを見たいときは裏を見たほうが良いのかなって。裏が綺麗なものは表はもっと綺麗になっているはずなので。
あとは、今はワンシーズンごと商品を買い替えていくよりかは、気に入ったものを長く着ていく服の付き合い方のほうが良いような感じもします。ケアが難しい商品は日常的に気兼ねなく着ることが難しかったりするので、米富繊維で作っている商品は、可能な限りご自宅で洗っていただけるような仕様になっています。
気兼ねなく着ることができる工夫ということですね。そもそも洗えるっていうのは、大江様自身はどこまでを「洗える」と考えていますか?
大江氏一応洗濯試験はするんですけど、寸法変化率※とか。
洗えない原因って基本は縮むことじゃないですか。カシミヤって繊維の形状にスケールがないんですよね、鱗みたいなギザギザが。ウールはスケールがあるんですよ。縮みってギザギザが重なって引っ張り合うから縮むってことなんですけど。カシミヤにはスケールっていうギザギザが殆ど無いんで、縮みにくいから洗えるってことなんです。
例えば、ウールカシミヤ。カシミヤが20%入っているんですけど、ウールだけだと縮みやすいところ、20%のカシミヤが縮みにくくさせてるんですよ。トータルバランスで、縮みにくいしタッチも良くなるし。尚且つ、詰め気味に作っているんです。
勿体ないと思うんですよね。一年着てリブが広がったり、着丈ダルダルになったり。だから最初に詰め気味に設計して、多少広がっても洗濯したら多少戻るように作ってあります。糸から作るケースが多いので、強撚にする理由とか、カシミヤを入れる理由とか、そういったのはあるかもしれないですね。
※寸法変化率・・・織物や編物を洗濯試験機にて洗濯し、脱水、乾燥した後の寸法の変化を百分率で示したもの
Q5.ロフトマンから依頼をさせていただいた別注は今回が三度目。ということで今回の別注「リジットドライバー」を製品化する上で工夫した点はありますか?
大江氏今までこのリジットカシミヤっていうのはミドルゲージの天竺編み、超度詰めのスウェットタイプ。(Yonetomiは)今年の秋冬で四年目ということで、アウターライクなニットのアウターといえばドライバーズニットかなって。これまで使っていたゲージより一つローゲージ寄りにアップして、今までのリジットカシミヤの体感的には倍くらいの厚さに、しっかりとした畦編みの組織でドライバーズニットを作ろうということで。
今までのリジットカシミヤとは組織が変わるので、どこまで詰められるのかがわからないっていうのを、最初お話をした時に(木村へ)お伝えして。そこから工場の方でいろんなタイプで編地を試作しました。
一番イメージに近いものを選んで形にしていく為に、表面のボリューム感と硬さをまた1からバランスを取るっていうのが大変なところでしたね。
半袖のTシャツにこれだけで冬を越せるってくらい防寒性と保温性を持ちながら、この上にライトアウターを着れるくらいのサイジングにしてあるので、本当に1月2月の寒い時とかにはナイロン系のアウターとかを上に羽織って。保温性はリジッドドライバーズニットに任せて、風を通さないようにそういったものとスタイリングを組むのもいいのかな、と。
ファスナーの引手は山羊革を使用しています。カシミヤ山羊の革は手配しようと思って探したんですけど、日本に入れるのが難しいということで。
ポケットの中もカシミヤなんですよね。
大江氏最初(ボディと)同じ7ゲージの天竺が付いていたんですよ。同じ機械でやるのがやりやすいんですけど。
けどダメでしょって、もこもこしてて(笑)。この内袋はいつものリジットカシミヤのゲージの同じ度詰めで付けてくれって。
要は、ポケットだけ違う機械で作って合体させる方がモノのバランスは良かったので。なので、そこは途中で変更しているんです。
見えないって言えば見えないんですけど、着た時にちょっと見えるじゃないですか。これが、出来るだけ薄くて硬いほうが収まりも良いんですよ。
ポケットに手入れるといつものみんなが知っているリジットカシミヤになるっていうね。
Q6.最後に、米富繊維さんからみたロフトマンについてお伺いできますか。
大江氏ロフトマンさんは、昔ながらの服屋さんっていうか。それぞれのお店にキャラクターの濃いスタッフの方が居て。お取引様のお店に行って話しかけられるってないんですけど、僕とお会いしてなくても、スタッフの方から話しかけられたりとか。
今、セレクトショップも商品もたくさんある中で、お店をやる上で“スタッフ力”っていうか、そういうのも求めてる人はたくさんいると思うんですね。極端な話、Aっていうお店でもBっていうお店でもCっていうお店でも、ECサイトでも扱っていたとしても、このお店のこの人から買いたいと思ってお店に足を運ぶ人もいると思うし。そういった意味で“スタッフ力”っていうのはお店をやっていて非常に重要なことなのかなって。
木村さんご自身も店頭に立っていて。それもすごい自然な形で店頭に立っていて、本来服屋ってそうあるべきものだよなって感じます。自分も元々前職では販売をやっていたので、山形のお店は自分も立っています。それがすごい特別なことをしているわけではなく。
別注以外にも色々展示会でお話をしていて、みなさんから関心するヒントを得ることがあるので、私としても勉強になるというか。そこから新しい商品ができて、別注のお取り組みで、より磨きがかかっていくというところがあるので。
そういう意味では勉強させてもらっているような感じですかね。
過去の製品や、編み地、ヴィンテージのニットに見られるユニークなデザインなどはアーカイブとして大切に保管されています。
糸の縮率なども考慮しながら、ニットを形成するための編み地を作成する工程。バリエーションに富む編み地の開発は難解なもので1週間以上かかる場合もあります。
プログラミングで作成された編み地をもとに適正なゲージの機械で生地を編む工程です。米富繊維では、3ゲージが9台、5ゲージが11台とローゲージ主体で日本一、世界でも有数の生産体制を整えています。
起毛機に敷き詰められたアザミの実を用いてニットに起毛加工を施す工程です。流れるような美しい起毛感としなやかな風合いが生まれる昔ながらの方法です。
編み上がった生地を型紙に合わせてカッティングしていく工程。一枚ずつハサミと電動カッターで裁断していく作業で、出来上がったニットの見え方だけでなく着心地等にも直結する重要な場面です。カッティングされた生地はその後、パターンごとに縫製を行い製品に仕上げていきます。
編み地同士を繋ぎ合わせる工程で、ゲージに合わせたリンキングマシーンを用いて繋いでいきます。放射状に配置されたポイント針にニットの編み地を一目ずつ合わせて縫っていく大変手間のかかる作りですが、ニットの伸縮性を最大限活かすことの出来る唯一の方法です。
編み地の確認はもちろん、製品タグのズレや縫製不良のチェックなど厳しい検品を終えて仕上がったニットは、1枚ずつ袋詰めされます。