※インタビューの音声が流れます。
brand :
1951年に創業した奥山メリヤスは山形県寒河江市に位置する老舗ニットファクトリー。数々のメゾンブランドやアパレルメーカーの製品を手掛けてきたほど、国内はもとより世界でもトップクラスの高いクオリティーを評価されています。
そして3代目・奥山幸平氏の手掛けるファクトリーブランド〈BATONER/バトナー〉が2013年に誕生しました。ブランド名には、日本が世界に誇る技術と伝統を次の世代へと引き継ぎ、バトンを渡すという意味が込められています。
生み出されるニットは、一見シンプルでオーセンティックな雰囲気がありながらも、細部まで拘った圧倒的に美しい仕上がり。基本中の基本の製法を守りながら作り続けられるニットの中でも得意とする畦網みの技術を採用した“Signature”シリーズは、ブランドを象徴するアイテムの一つ。丁寧にひとつひとつ手作業で繋ぎ合わせられるリンキングという縫製技術から、肌触りの良さや繊細さに定評があります。
interview :
Q1.バトナーを代表するシグネーチャーニットの開発過程や改良などの
製品化に至るまでの制作秘話を教えて頂けますか。
奥山氏秘話っていうほどのことではないんですけれども、元々奥山メリヤスという会社は山形のミドルゲージやローゲージニットを作るのが得意な背景を活かしながら商品化していくことにすごく定評があって。
ただ、いい評価はいただけるんだけど、そのとおりに作ると値段高くなっちゃうということもあり、商品化しづらい商品ではあったんですね。
そこで、バトナーというブランドを作り、自分たちで柱となるような商品というのを作り始めようと思って。その柱となる商品がこのシグネチャーというシリーズとなっています。
Q2.その柱となるシグネチャーシリーズ。バトナーをスタートしてから10年間欠かさず展開されていると思いますが、初代のモデルと現行のモデルって大きな違いはありますか。
奥山氏そうですね、メジャーな部分はチェンジしていないんですが。マイナーチェンジを毎年毎年繰り返して、10年間の中で少しずつアップデートしている商品ですね。
Q3.ありがとうございます。今シーズンのシグネチャーシリーズにはどのような改良を施されているのですか。
奥山氏毎年そうなんですけど、糸の滑らかさ、着たときの肌に触ったときの着心地の良さと、あとは毛玉になりにくい部分は毎年何かしら改良を加えてアップデートしているので。
去年のものと比べて肌触りが良くて、目面がきれいになっているということですかね。
Q4.バトナーというと、(シグネチャーシリーズのような)畦編みの商品が代表的かと思います。この畦編みについてのこだわりや工夫はありますか。
奥山氏立体的であるということが非常に拘りがあってですね。リブの畝がより立体的に、見ていただいたときによりきれいになるように、糸からゲージに対して糸がハマるような工夫といいますか。そこの拘りっていうのが一番商品に反映されているのかな、と思います。
Q5.少し趣旨の変わる質問になります。ニットメーカーとして、奥山メリヤスさんが他のファクトリーに負けない、真似できないものづくりっていうのはありますか。
奥山氏人それぞれ価値観というのは違うので、勝ち負けの話ではないとは思うんですけど。より多くの人にいいと思っていただけるような、詳しくは分からないにせよ、その製品のクオリティというか、精度が高いというのが、語らずとも伝わるという部分には想いがありますね。
Q6.クオリティにこだわり毎年改良を重ねていく中で、価格が変わらない、もとから手の届きやすい価格に僕たちスタッフとしても驚きます。そのようにできる仕組みだったり、理由っていうのはありますか。
奥山氏儲かってない…笑。でもほんとに、よく言うんですけど、採れたての新鮮なより美味しい野菜が、お客さんに産直市場などで安く手に入るような感覚と近いもので。生産者の僕たちが、中間のコストをできるだけかけずに、お客様へダイレクトに伝えているということもありますし、(シグネチャーシリーズは)バトナーを知ってもらうためのある種“エントリーモデル”ということもあり、良い意味でプライスと(クオリティの)アンバランスさを感じていただけるような商品にしたいな、という想いがあります。
Q7.ロフトマンでも、シグネチャーシリーズからバトナーを知ったというお客様も数多くいらっしゃいました。そんなお客様に提案してきた別注商品ですが、今回の別注商品について製品化する上で苦労した点はありますか。
奥山氏苦労はしていないんですけど、なんていうんでしょうね・・・。良さを消さないようにご要望にお応えする(というところにこだわりがあります)。今回(この秋冬の別注企画)はハーフジップということもあって、ロフトマンさんだけの別注の形ということになるんですけど。ソリッドウールのリブのクルーネックというのは、シンプルがゆえのということもあるので、そこにプラスの要素を加えるということは、その要素が目立ちすぎない落とし込みというか、すっと馴染むような、邪魔しない溶け込み方に拘りがありますね。
Q8.今回の別注に使われているジップや釦の副資材はどうやって選ばれていますか。
奥山氏シグネチャーに関して言うと、綺麗な編み目が特徴であるので、編み目にすっと馴染むように、引いたときに滑らかに行き来するようなファスナー。それを別注モデル用に作っています。
Q9.海外生産が増えている中、海外のニットメーカーと比較されることもあるかと思います。今山形で生産するということについての強みと考えている部分はありますか。
奥山氏難しい質問ですね。まぁ、何箇所か海外のファクトリーを見させいただいて頂いてはいるんですが、全てを知っているかというとそうではなくて。一概に比較するのは難しいんですけれど…。
国内においても山形山地っていうのは、ミドルゲージ・ローゲージの風合いを表現するのが上手な産地と言われているので。そういったニットを作ることができる環境というところと、その環境に弊社の持ち合わせるクオリティコントロール的なところを組み合わせることによって差別化を図れればいいと思っています。
海外には海外の歴史があって、精度以前の問題で、歴史とか味とかは一概には物の善し悪しだけでは判断しづらいってことはあると思うんですけど。日本人のモノづくりの精度の高さっていうのは、やっぱり比較すると繊細だなって感じる部分はあるので、そこで差別化が図れるような…という想いはあります。
Q10.なるほど。山形がミドルゲージ・ローゲージを得意とするのは、なにか理由があったりするのですか。
奥山氏山形は聞いたところによると、交通の便が良くなるのが一番遅かった地域で。ニットの編み機でいうと、進化してハイゲージになっていったので、交通の便の良い新潟地域とか福島地域とか、そういった産地さんはどちらかというとハイゲージが得意という大きな流れがあって。
山形は最新の編み機が入ってこなかったという過去の流れがある中で、ミドルゲージ・ローゲージという古来からあるようなニットのモノづくりが残っています。それに付随して、染工所さんや風合いを出す洗い場さんが残っていて、そういったミドルゲージ・ローゲージを作る総合的なインフラが未だに良いとされているというか。そういうふうな形が今でも残っているということですかね。
Q11.ありがとうございます。創業して70年ほどになると思うのですが、10年前にバトナーを立ち上げようと思ったきっかけはどういったものでしょうか。
奥山氏先程も冒頭の部分でお伝えしたところと重複するんですけど。どうしてもミドルゲージ・ローゲージの、ウールの良質な部分だけを使ったセーターを作ろうと思うと、OEMや下請けの流通の流れ上、良いものは中々求められづらいというところがあって。だったら自分たちで、自分たちが最も得意とする、お客さんに胸を張って提供できるっていうものをブランド化して提供してみようっていうのが、一番最初に立ち上げた経緯ですね。あとはまあ、やっぱりそれに付随した技術というのも、(セーターを)自分たちで作ってお客様に提供しながら、その作っているインフラも残したいっていう。なんていうんでしょう、そういったまとまった考えが、バトナーというブランドが立ち上がった経緯ですね。
Q12.奥山メリヤスさんからみたロフトマンについてお伺いできますか。
奥山氏非常に難しい…。こちらから拝見したときのロフトマンさん。まあ、僕たちは東北を拠点にしているので、東北の人たちってロフトマンさんのみならず関西の方に行く機会って少ない…。まあ逆も然りだと思うんですけれど。そこまで正直西の方のお店さんがどういうものがあるかって、わからない人が大多数だと思うんですけど。
僕たちはたまたまお取り組みをさせていただいて、ロフトマンさんを知っていく中で、そうですね、やっぱり色々あるお店さんだなと。一言でいうと色々あるなっていうのが第一印象で、それがすごい新鮮だったし、面白いなって。あんまり東北にはないようなお店さん、商品の構成もそうだし、規模感とかもそうなんですけど。
一お客さんとして行ったときに、単純にワクワクするし、楽しいな、目移りしちゃうくらい。お店も違う屋号であるじゃないですか。どこで何を買おうかなって。そういうショッピングする上での楽しさの基本みたいなところがあるのかな、というふうに思っています。ロフトマンさんでは取り扱っているブランドが多いし。このブランドの横にこのブランドがあるっていうか、勝手に自分が持っているセオリーがいい意味で裏切られるというか。そういう部分では、別に決まっていることではないけれど、〇〇系って世の中が縛っているだけで、(ロフトマンに)行くと認識するというか。本来セレクトショップはそうあるべきという。
Q13.最後に、奥山メリヤスの、バトナーが私達を通して伝えたいことはございますか。
奥山氏どこまで言って良いのか・・・難しいんですけれど。そうですね、やっぱりでも、ブランドが主体って考え方ではなく、(商品を)買って頂いたお客様があくまで主体っていう考え方があるんですけど。わたしたちが目指していることって言うのは、やっぱり、作り場があってこそのファッションと言いますか。すいません、あんまりそこ重くしたくないんですけど・・・。
そこに比重を置きすぎてしまうと、難しい考えになっちゃうと思うんで。根底には作っている人たちの地位を向上させたいって言うと大げさですけど。それがあるんですよね。それが、これからかなりシュリンクしてきて、しつつあるんですけど。ものが作れなくなっちゃうってところになってきているんで、そこをうまくロフトマンさんのお客さんに伝わる最後の部分で(あって欲しい)と思っています。
BATONERの製品の土台となる糸の染色や紡績、仕上げの縮絨などを担う山形整染(株)の作業風景。かせ染めとチーズ染めという性質の異なる2種類の染色技法を使い分け、様々な色味を表現できます。
BATONERでは主に成型編みという方法でニットを作成しています。パターンに合わせた編みのデータをサイズ展開毎に修正せねばならず非常に手間のかかる手法だが、糸のロスなども生じにくい環境に優しいモノづくり。その根幹を担うのがこのプログラミングの工程です。
プログラミングで作成されたデータは編み機に移され、寸法通りに編み上げられます。BATONERでは前見頃、後見頃、右袖、左袖を順に作成していく手間のかかる方法をとり、環境的要因等による製品の誤差を極力減らしています。使用する糸の番手や機械のゲージによっても仕上がりの表情が全く異なるのでニット作りの奥深さが垣間見えるシーンです。
型通りに編まれたニットのパーツは職人の手仕事によって繋ぎ合わされ、製品となります。その"繋ぎ"の工程がこのリンキング。指定されたゲージ毎の針にニットの目を一目ずつ通していく作業。ニットのニットたる伸縮性を最大限に活かす方法です。
各工程毎にもクオリティコントロールがなされていますが、製品の最終確認として編み地の状態、縫製やほつれのチェックなどが入念に行われます。
温度や湿度、糸の性質などの要素によって生じた多少の誤差を金型と高温蒸気によって調整し、寸法を揃える工程です。金型を微調整しながら製品寸法通りに合わせていきます。また、モヘア等の繊維を活かした製品は洗いをかけることで風合いに変化を良化させます。
製品のチェックが完了し、ファクトリー内の最終工程がパッキングです。この工程も1枚ずつ手作業で袋詰めしていきます。なお、発送前には必ず金属探知機による金属片の混入の有無をチェックします。こうしてBATONERのニットは届けられるのです。